地下迷宮
-もんすたぁさぷらいずどゆう-

伝説の生物「んちゃめぬぷぅ」だ。
丸っこい体に、つぶらな瞳。ぬいぐるみのような毛並み。
誰もが一度は見たことがある――はずの姿だった。
いや、正確には「見たことがある気がする」。
テレビで見たのか、図鑑で見たのか、夢で見たのか。
そんな曖昧な記憶の中にだけ存在していた生き物。
それが、今、目の前にいる。
「うぬは何者ぞ?」
声をかけられた。
可愛らしい見た目からは想像の範疇ではあるものの、何となく無理して作った裏声だ。
演技くさいというか、挑発しているというか。富○副部長というか。
……いや、実際そういう存在なのかもしれない。
「……えっと、通りたいだけなんだけど」
「通るなら、礼を示せ」
んちゃめぬぷぅは、両手(というか短い前足)を腰に当て、偉そうに胸を張った。
その動きだけは、やけに人間臭い。
「礼って……何をすればいい?」
「チョコモナカジャンボくれよ」
嗚呼、そこの設定は忠実なのか。
いや、そもそも誰が設定したんだ。
チョコモナカジャンボを要求するUMAなんて、聞いたことがない。
「持ってないよ」
「……ふむ」
んちゃめぬぷぅは、なぜか満足そうに頷いた。
「うぬ、嘘はついておらぬな」
「嘘をつく者は、目が四角くなる」
「四角く……?」
「四角くなる」
断言された。
意味は分からないが、妙に説得力だけがあった。
んちゃめぬぷぅは、こちらをじっと見つめたまま動かない。
ガラス玉みたいな目が、光を吸い込んでいる。
かわいいはずなのに、見ていると少し息が詰まる。
「じゃあ、どうしたらいい?」
「チョコモナカジャンボが無いなら、仕方ない」
「その代わり……」
んちゃめぬぷぅは、急に顔を近づけてきた。
毛が触れそうなくらい近い。
「“んちゃ”と言え」
「……んちゃ?」
「声が小さい」
「んちゃ」
「もっと魂を込めろ」
「んちゃ!!」
その瞬間、んちゃめぬぷぅの頬がほんのり赤くなった。
照れているのか?
いや、照れる要素がどこにあるんだ。
「よし」
満足そうに頷き、んちゃめぬぷぅはくるりと背を向けた。
そして、何もない空間に向かって、ぼそっと呟いた。
「通行許可、出たぞ」
……誰に言っているんだ。
次の瞬間、んちゃめぬぷぅは道の真ん中から、すっと横に移動した。
まるで最初から「ここに立つこと」が仕事だったみたいに。
「行け」
「振り返るなよ。戻れなくなる」
敵意はなさそうだ。
ただ、存在そのものが意味不明すぎて、逆に怖い。
私は黙って頷き、その横を通り抜けた。
背後で、無理して捻り出した裏声が聞こえた。
「チョコモナカジャンボ……買ってこいよ」
