デバッグルーム404

地下迷宮
-もんすたぁさぷらいずどゆう-

伝説の生物「んちゃめぬぷぅ」だ。

丸っこい体に、つぶらな瞳。ぬいぐるみのような毛並み。

誰もが一度は見たことがある――はずの姿だった。

いや、正確には「見たことがある気がする」。

テレビで見たのか、図鑑で見たのか、夢で見たのか。

そんな曖昧な記憶の中にだけ存在していた生き物。

それが、今、目の前にいる。

「うぬは何者ぞ?」

声をかけられた。

可愛らしい見た目からは想像の範疇ではあるものの、何となく無理して作った裏声だ。

演技くさいというか、挑発しているというか。富○副部長というか。

……いや、実際そういう存在なのかもしれない。

「……えっと、通りたいだけなんだけど」

「通るなら、礼を示せ」

んちゃめぬぷぅは、両手(というか短い前足)を腰に当て、偉そうに胸を張った。

その動きだけは、やけに人間臭い。

「礼って……何をすればいい?」

「チョコモナカジャンボくれよ」

嗚呼、そこの設定は忠実なのか。

いや、そもそも誰が設定したんだ。

チョコモナカジャンボを要求するUMAなんて、聞いたことがない。

「持ってないよ」

「……ふむ」

んちゃめぬぷぅは、なぜか満足そうに頷いた。

「うぬ、嘘はついておらぬな」

「嘘をつく者は、目が四角くなる」

「四角く……?」

「四角くなる」

断言された。

意味は分からないが、妙に説得力だけがあった。

んちゃめぬぷぅは、こちらをじっと見つめたまま動かない。

ガラス玉みたいな目が、光を吸い込んでいる。

かわいいはずなのに、見ていると少し息が詰まる。

「じゃあ、どうしたらいい?」

「チョコモナカジャンボが無いなら、仕方ない」

「その代わり……」

んちゃめぬぷぅは、急に顔を近づけてきた。

毛が触れそうなくらい近い。

「“んちゃ”と言え」

「……んちゃ?」

「声が小さい」

「んちゃ」

「もっと魂を込めろ」

「んちゃ!!」

その瞬間、んちゃめぬぷぅの頬がほんのり赤くなった。

照れているのか?

いや、照れる要素がどこにあるんだ。

「よし」

満足そうに頷き、んちゃめぬぷぅはくるりと背を向けた。

そして、何もない空間に向かって、ぼそっと呟いた。

「通行許可、出たぞ」

……誰に言っているんだ。

次の瞬間、んちゃめぬぷぅは道の真ん中から、すっと横に移動した。

まるで最初から「ここに立つこと」が仕事だったみたいに。

「行け」

「振り返るなよ。戻れなくなる」

敵意はなさそうだ。

ただ、存在そのものが意味不明すぎて、逆に怖い。

私は黙って頷き、その横を通り抜けた。

背後で、無理して捻り出した裏声が聞こえた。

「チョコモナカジャンボ……買ってこいよ」

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